明確に人種間の発汗機能の相違について述べた情報を探し出す事はできませんが、いくつかの事実を総合すると、人種によって発汗機能に違いがある可能性は否定できない、ということが分かりました。
もちろん、情報源としているリサーチがそもそも100%正しいわけではないため、断言は出来ません。そのため、「現時点では可能性がある」といった程度の結論となります。
この記事では、人種と発汗の相関を示唆するような事実をいくつか紹介していきます!
日本皮膚科学会の「原発性局所多汗症診療ガイドライン」によると、イスラエル、アメリカ、中国の3カ国において、全人口における手掌多汗症の割合は以下のようになっています。
・イスラエル:0.6~1%
・アメリカ:2.8%
・中国:4.36%
また、原発性局所多汗症の発症年齢の平均は中国が10~14歳、アメリカが25歳となっており、発症者の割合と発症年齢の平均が国ごとに異なっている事が分かります。
なお、それぞれの結果は異なる研究によって導き出されたものであるため、これらを比較することが必ずしも正しいとは言い切れない点には注意が必要です。
記事下部でも紹介しますが、体温調節時の発汗は「能動汗腺」と呼ばれる汗腺からの発汗によって行われており、この能動汗腺の数は下図のように人種ごとに異なっているそうです。
必ずしも能動汗腺が多いほど汗の量も多いとはいえませんが、この事実も人種間で発汗機能に差異がある事を示唆しています。
・ロシア人 189万個
・日本人 228万個
・タイ人 242万個
上記で紹介した事実から「人種によって発汗量、発汗機能は異なる」と結論付ける事はできません。なぜなら人種間以外の差異を考慮していないからです。例えば以下の2つが挙げられます。
・生活環境の違い
・体格の違い
たとえ国、もしくは人種ごとに発汗量を測定したとしても、それにより得られた発汗量の差異は、生活環境の違いや体格の違いによって引き起こされている可能性を否定できません。
以下でこの2つの点について見ていきましょう!
汗腺には「エクリン腺」と「アポクリン腺」の2種類が存在し、エクリン腺の方が体温調節機能の役割を担っています。しかし、すべてのエクリン腺から汗が分泌されるわけではなく、「能動汗腺」と呼ばれる一部の汗腺のみから発汗が促されます。
生まれたばかりの胎児では、発汗を司る中枢神経が未発達であり、汗をかく能力は備わっているのにも関わらず汗をかく事ができません。これは生後まもない胎児の汗腺が能動化されていない事を意味します。
汗腺の能動化は生後28週ごろから行われ、35~36週まで発汗機能が発達し続けて、それ以降は能動汗腺の数は変化しません。
つまり、能動汗腺の数は生後2~3歳で決定されるという事になります。
能動汗腺の数は、汗腺の能動化が行われる生後2~3年までに育った環境によって決まり、一般に暑い地域で生まれ育った人の方が寒い地域の方よりも能動汗腺の数が多くなる事が知られています。
実際に、日本で生まれ育った日本人(日本在住)の能動汗腺の数の平均は228万個に対し、日本よりも暑いタイで生まれ育った日本人の場合、その数は平均274万個になります。
また、汗腺が発達する期間を過ぎてタイへ移住した日本人の場合、その数は平均229万個となり、日本で生まれ育った日本人(日本在住)の場合の数と大差がないという結果が出ています。
これらのデータから、能動化が行われる期間に生活する場所の気候が、能動汗腺の数を決める要因になる事が分かります。
冒頭で紹介した人種ごとの能動汗腺数の違いを見てみると、暑い地域で暮らしている人種の方ほど汗腺数が多くなっている事がわかります。そうなってくると、冒頭のデータの汗腺数の差は、「生まれ育った地域の気候」の違いによって生じた可能性を否定できません。
つまり、「能動汗腺数は気候に依存するが、人種に依存するかは不明である」という可能性が出てくるのです。
また、日本クラブ診療所の医師 安藤 達也氏は、汗腺の能動化は人種よりも気候による差の影響が大きいと述べています。
国ごとに平均身長や平均体重は異なり、能動汗腺の数や発汗量がそれらの指標に依存しているのであれば、冒頭で紹介したデータは人種の違いによるものとは限らないという事になります。
大型であるほど体重当たりの体表面積が小さくなり、体温保持に有利になります。そのため、寒冷地に住む動物ほど大型になる傾向があるというのがベルクマンの法則です。
一方、体が大きくなると、体温保持に有利になる反面、熱放散効率が悪くなり、体温が下がりにくく、体温調節に多量の汗が必要になります。これが肥満体型の方に汗っかきが多い理由であると考えられています。
つまり、ベルクマンの法則を考慮すると、体の大きい人が多い寒い国の出身の方は汗っかきになるはずです。
まとめると以下のようになります。
寒い国出身 → 体が大きい → 汗っかき
ただし、ベルクマンの法則には例外も多く、ヒトにも当てはめる事ができるかは微妙な所です。
五味クリニック院長の五味常明氏は、暑い地域出身の方は体温調節機能が優れており、少量の汗で効率良く体温を下げる事が出来るが、一方、寒い地域出身の方は蒸発しにくい大粒の汗をかくので多くの汗が必要であると述べています。
この意見が正しいのであれば、
寒い地域出身 → 汗っかき
となり、ベルクマンの法則を仮定せずとも寒い地域出身の方が汗っかきである事が示せます。
オーストラリアにあるWollongong大学のSean Notley氏が中心となって行った研究では、体格と発汗量には相関があり、体格が大きい人ほど発汗量も多いという結果を報告しています。
この研究結果より、人種間での発汗量の違いは、体格の違いも関係している事になります。
以上の事実をまとめると、
・体が大きい → 汗が多い(Sean Notley氏の研究より)
・寒い地域出身 → 汗っかき(五味常明氏の意見より)
となります。人種間での発汗量の違いは、実は体格と出身地域の寒暖の差によるものかもしれませんね。
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